2005年 10月 12日
「蝉しぐれ」古き良き国、日本の純愛。
藤沢周平原作作品の映画化といえば、このところ山田洋二監督の独壇場という感じでしたが、今回のこの作品は黒土三男監督が脚本も手掛け、実に構想から15年の歳月を要して完成しました。「蝉しぐれ」(東宝)。力作です。人を想う純粋な気持ちに、心が洗われる気がしました。
江戸時代、東北の小藩「海坂藩」の下級武士・牧助左衛門(緒形拳)の(義理の)子、文四郎(少年期を石田卓也、成年後を市川染五郎)は15歳。隣家に住む幼なじみのふく(少女期を佐津川愛美、成年後を木村佳乃)に淡い恋心を抱きながら、友人である逸平(ふかわりょう)、与之助(今田耕司)等と共に、剣術と学問に明け暮れる日々。そんな文四郎の身に、或る日突然大きな異変が起きた。父が捕らわれたのだ。理由は藩の世継ぎに関する争いごとにかかわり合っていたということだった。やがて助左衛門は切腹を命じられ、文四郎と母・登世(原田美枝子)の生活はその日から一変。罪人の子としての辛い日々がはじまった。やがて、ふくが殿の屋敷の奥につとめることになり江戸へ行くことになった。江戸に立つ前に文四郎に会いたいと、藩の命で長屋に移り住んだ文四郎の家へ走るふく。だが2人は会うことが出来ないまま、ふくは江戸へと旅立った…。
“真っ直ぐに生き続けること”の大切さ。そして“人を想いつづけること”の気高さ、儚さを痛感させられました。簡単に『くっついた』だの『別れた』だのと、お気楽に生きている現代の日本人が忘れてしまった“心”を、この映画は思い出させてくれます。手の届くところにいた人が、いつの間にか手の届かないところに行ってしまう。そして、永久に結ばれることは叶わなくなっても、お互いを想いつづける…。ラストでの、ふくが輿の中から涙をたたえた瞳で文四郎の姿をいつまでも追いつづけるシーンには、思わず号泣しそうなほど胸を絞めつけられてしまいました。本当に清々しい感動に浸ることが出来ました。藤沢周平ご本人から、唯一映像化を許された黒土監督の会心作と言えるでしょう。
最初、キャストに“ふかわりょう”“今田耕司”の名前を見たときは『大丈夫かいな?この映画』と不安になったのですが、2人とも予想外の演技(失礼!)で、なかなかハマッておられたと思います。また柄本明の飄々とした演技、緒形拳の存在感溢れる演技、原田美枝子の慎ましい美しさの中に、凛とした強さを感じさせる演技…など個々の俳優のそれぞれの演技が、その個性を活かして映画を重厚且つ清廉としたモノに仕上げています。
惜しむらくは、台詞があまりにもキレイな“標準語”で構成されていたこと。「たそがれ清兵衛」などでは、徹底して庄内(山形)弁を使っていたので、やはり同じ“海坂藩”を舞台にしているので、出来れば方言で聞いてみたかったのですが…。
ところで、山田洋二監督も次回作でまた藤沢作品に挑まれるそうで、主演には何とあのキムタク(記事はコチラ)!さあ、果たしてどんな作品に仕上がりますのやら…。
「蝉しぐれ」は、ただいま絶賛公開中です。できれば、一番大切な人と一緒に映画館でご覧下さい。





